小説

三日月に腰をかけて

わたしはベランダから夜空を見上げていた。
部屋着だと少し寒い。それでも外の空気を吸っておきたかった。

「ぷはぁ~」
缶ビールを飲む。
仕事を終え、ご飯を食べ、風呂上がりにベランダに出てビールを飲む。
このルーティーンを何度も何度も繰り返してきた。

今夜は三日月だった。
両端が尖っていて、指に刺さったら痛そうだけれど、綺麗だ。

月には不思議な力があるような気がする。
もし月がなかったら、地球は今のように生命で溢れた惑星にはならなかったのではないだろうか。

詳しいことはわからないけれど、そんな気がする。
何かすごい力を持っているのだ。

……。

あの三日月を通して、運命の人と心を通わせることができたらどんなに楽なんだろう。

恋愛をしてすれ違って、苦しかったり、悲しかったり。
何回泣いたかわからない。

そんな想いをすることもなくなるはずだ。
でもそのかわりに、胸がきゅんとするようなことも無くなってしまうのだろうか。

簡単に見つかるよりも、苦労して見つかるほうが人にとって幸せだから、神様はそういう仕組みを作ったのかな。

今のところ、わたしの運命の人はどこにいるかわからない。
運命の人も、わたしのことを探しているのだろうか。

「最初にみたときから、この人と結婚すると思った」
というフレーズをたまにきくけれど、本当なの?

わたしは心のなかで夜空に問いかけたが、返事は無かった。

この夜空には数えきれないほどの星が輝いている。
この大きな世界で、二人だけで作ることができる世界があるとしたら。

二人で三日月に腰をかけて、ゆっくりとお喋りしたいな。
のんびり、まったりと。