読書メモ

植物の生存戦略と代謝経路について

概要

 植物は薬の原料であることに間違いはないが、人間のために都合よく作られているのではない。人間が植物から薬品を作れるのは、植物が厳しい進化の歴史の中で、多様な化学成分を作るという機能を発達させてきた結果なのである。

植物の生存戦略について

 植物は動物と違い、生命として成り立つために「動かない」という選択をした。
 その結果、独自の生存戦略を発達させた。

①同化代謝戦略…太陽エネルギーと土からの栄養による光合成
 代謝とはエネルギーをやり取りしながら、生命の活動に必要なものを生体内で合成・分解すること。

 動物は動いて食物を獲得するが、植物は二酸化炭素と土壌から得る。
 →動物は有機化合物を摂取し、消化や分解をして単純な化合物に変換する(異化代謝)
 →植物は単純な無機塩類を使い、エネルギーを与えアミノ酸や糖をつくる(同化代謝)

②化学防御戦略…様々なストレスに対する化学兵器による防御
 植物は動いて逃げるということができないため、独自の化学的な防御戦略を発達させた。

・有毒な化学成分を生成…苦い、渋い味や神経を麻痺させる
・抗菌性のある化学成分を生成…病原菌の繁殖を抑え、打ち勝つ力
・他の植物の生長を抑える化学成分を生成…他の植物よりも優位に立つ力

③繁殖戦略…化学成分で相手を引き寄せる
 植物は動くことができないため、後代を残すために花粉を他の花に運んでもらう必要がある。

・風媒花…大量の花粉を作り、風で飛ばすことで繁殖する。他の生物に依存せずに受粉できるが、大量の花粉を作って飛ばす必要がある。
・虫媒花…昆虫を引き寄せ少ない花粉で繁殖する。特異な色や、香りを持つ成分を生産し、花や葉、種子や果実に反映させている。

植物の代謝経路について

 代謝経路とは、細胞の活動に必要な化合物がどのように変化していくのかを示す路線図のようなもの。
 化合物と化合物を結ぶ路線が代謝経路である。
 代謝反応は反応ごとに決まった「酵素」というタンパク質で作られた触媒の力を借りて起こる。
 酵素タンパク質は路線の数だけ存在する。

 代謝経路は以下の二種類

一次代謝経路…どの生物にもほぼ共通している代謝経路
・糖や脂質、タンパク質、核酸などをより単純な化合物に分解&エネルギーを取り出す
・単純な化合物からエネルギーを与えながら複雑な分子を合成する

二次代謝経路…ある生物種やその仲間にだけ存在する代謝経路
・植物やある生物種(カビや細菌類など)に特異的に存在する
・代謝産物はアルカイド、フラボノイド、タンニン、テルペノイドが代表的
・薬の元になることが多い化合物群(本来は生体防御や繁殖のための特異的成分)

参考文献

『植物はなぜ薬を作るのか (文春新書) 』斉藤和季 著