小説

むかしばなし

「あなたたちに、むかしばなしをします。教訓となる大事な話です。すぐに終わるから最後まで聞いておくように」
先生は僕たちに向かって、いつもよりも真剣に語りはじめた。それはこんな話だった。


むかしむかし、あるところに、とても美しいお姫様がいました。

お姫様の住む国は世界の北にあり、北の国と呼ばれていました。お姫様は北の国の王と王妃のあいだに生まれたひとり娘で、とても大切に育ててられました。しかし、お姫様が成長していくうちに、王と王妃は跡継ぎのことを心配するようになりました。

歴史のある国であり、途絶えさせることは絶対に許されなかったのです。

「お見合いをしましょう。あなたのためにも、国のためにも」

王妃は娘が結婚可能な年齢に達した年に、お見合いを提案しました。

「いやだ、結婚するかどうかだって決めていないし、もし結婚するとしても、相手は自分で見つけるの」

王妃は娘の言い分を聞き入れることなく、王と一緒に自国の利益になりそうな国をピックアップし、その中から跡継ぎに相応しいと考えられる王子を探しました。

その結果、王妃の厳しい基準をクリアした東の国の王子と西の国王子の2人の王子が候補にあがりました。

王妃は、それぞれ国へ連絡をとり、お見合いを持ちかけ、日取りを決めました。

嫌々ながらも、お姫様は2人の王子とお見合いをしましたが、どちらの王子とも仲良くなりたいとは思いませんでした。

しかし、王妃はどちらかの王子を選ぶように強くお姫様に迫りました。

そんな中、東の国の王妃が西の国の王妃に交渉を持ちかけました。

「北の国のとの見合いをやめていただけませんか? もちろん、それなりのお礼は差し上げます」

西の国王妃は、東の国の王妃の条件を受け入れることができず、更には怒りを覚えました。西の国の発展を考えると、北の国と親密な関係になることは、有効であると考えていたからです。

東と西の王妃同士のいさかいをきっかけに、東の国と西の国はお互いを批判的に見るようになりました。

そして対立は激化し、2つの国は戦争をはじめてしまいました。まったく関係のない人たちが戦争に巻き込まれ、死んでいきました。

お姫様はその事実を知り、涙を流しました。

お姫様は、どちらかの王子を選び結婚していたら、こんなことにはならなかったのかもしれないと悔やみました。

自分の意思を通せば戦争になる、自分の意思を殺せば戦争にならない。

「なぜ戦うの? なぜ権力が欲しいの? なぜ関係のない人を巻き込むの?」

お姫様は、この残酷な世界に絶望を覚えました。

その後、東の国と西の国は戦争により滅び、北の国は跡継ぎがいなくなり、自然消滅してしまいました。


「じゃあ世界には何が残ったと思う?」

教室は静まり返っていた。

空白の時間を噛みしめるように、先生は間を置いたあと、口を開いた。

「この世界には我々の国、そう、この南の国だけが残りました。めでたし、めでたし」