小説

決意の朝に

カーテンを開けると、ひんやりとした空気が体を伝った。
まだ外は暗く、静かに時が流れている。

私はベットに座ったまま、カーディガンを羽織った。
今は七時十分。
あと十分程待てば、日が昇る。

今年は……、もう去年か。
去年は色んなことがあった。
もちろん、毎年色んなことはあるけれど、今年は特に強烈な一年だったと思う。

毎日感染者数の増加を警告する報道が流れていたし、人と人との繋がりは希薄になった。
何度も注意を促すことで、外を出歩く人は減り、リモートワークが当たり前になった。

それでも外出する人はいた。旅行を楽しんだり、帰省をして家族に会ったり。
ルールを守る者と守らない者。

ルールを破った者は悪者となり、ネットを通じて全てを暴かれた。
トップの判断を信じる者と批判する者が現れ、対立した。

世界はウイルスによって危機に晒された。
そして、人間の汚いところが顕になった。

自身の価値観を信じて、相手の人格を批判し、我は正義だと主張する。
虚偽の情報に操られる者は、世間を混乱させた。

人間は対立しようとする。
世の中には正義と悪があり、自分が正義の側だと思いこんでいる。

ここ一年の人類の発言を要約するとこうなる。
「自分の考えは正しい。でもあなたは間違っている」

はあ、五分経った……。
ネガティブなイメージが空気を回転している。

空気。
そう空気がそんな感じなんだ。
暗黙のルールがあり、それを逸脱すると敵だとみなされ攻撃される。

いつの間にか作られている空気。
集団に共通して漂っている価値観が、その場の正義となる。

なんか疲れる。
どっちが正しいとか、間違っているとか、そんなふうに言って争うのに疲れる。

でも意見を主張するのは、大事なことだ。
意見を言わないと、そこに自分は存在していないとみなされる。
黙っていても、何も始まらない。

きびしいせかいだなぁ……。
ずっと、ベットの上で生活できたらいいのに。

好きな映画とか、アニメを観て、誰かと感想を言い合って。
外に出て、好きな人と手を繋いで、カフェに入って談笑して。
争いの無い、そんな綺麗な世界だったらいいのにな。

こんな風に私が考えている世界も、自分の正義で、誰かにとっては悪なのかもしれない。
また堂々巡り。考えはまとまらない。

でもそんな簡単にまとまってもらっては困る。
ずいぶん考えているのだ、さくっと解決したら、なんか味気ない。

今年はどんな年になるのかな、ワクチンとか出たらウイルスには勝てるんだろうけど、争いには誰にも勝てないのかな。
純粋に笑える日はいつくるのかな。

七時二十二分。

部屋がぱっと明るくなった。
窓ガラス越しではあるけれど……、
初日の出の光が私を包んだ。