段取りの悪いおじさん
僕は高校生の頃、飲食店でアルバイトをしていた。
1年くらいして、40代ぐらいのおじさんが入ってきた。
なんでこの年の人がアルバイト?と思っていたが、そのおじさんは既に建設業で働いて、昼間はメインの仕事をして、夕方だけバイトに入りたいということだった。
おじさんは全然仕事ができなくて、僕はいつも心の中でイライラしていた。段取りが悪くて、強く言ってしまうこともあった。
今思うと、あのおじさんはすごい。
会社員として働きながら、夕方にはバイトをしていた。休みはあまりとっていなかった。
体力的にもきつかっただろうし、そもそもあの年齢でバイトをするってのはプライド的にも辛かったはずだ。プライドを捨てて、家族のためにお金を稼いでいたのだ。
息子が好きなアーティスト
ある日おじさんが、「息子が好きなんだ」とあるアーティストのアルバムを僕にくれた。
僕はおじさんの息子のことを羨ましいと思った。僕の父親は、僕が何の音楽を聞いているかなんて知らなかったし、興味もなかっただろうから。
僕はおじさんからもらったアルバムを聴いた。
それをきっかけに、そのアーティストのことが好きになった。
いつの間にか、カラオケでも歌うようになっていた。
「学費を稼がないといけないからね」
おじさんは缶コーヒーを飲みながら僕に言った。
僕はおじさんみたいな父親になりたいなと思った。