時計を見ると夜中の二時だった。しんと静まりかえった六畳半の部屋の蛍光灯は消えて、何も見えなかった。
何してたんだっけ。
スマホが充電されることなく布団の端に転がっている。手に取るが暗くて顔認証がエラーになり、わざわざパスコードを入力して立ち上げた。
スマホはSNSの投稿画面のまま次の入力を待っていた。スマホを触りながら、何か投稿しようとして寝たってことか。何をつぶやこうとしてたんだっけ。全く思い出せない。何やってんだ。はぁ、何やってんだ、俺は。
◇
「これが最後の投稿になります」
仲の良かったフォロワーは、これを最後にアカウントを削除した。また一人いなくなった。でも俺は、まだここにいる。いなくならないよね、と信じていた人がまたいなくなった。いや、もともとここには誰もいなかったのだ。ただ、みんな暇なときに立ち寄っていただけだ。
ここには救いはない。早く次に向きなおって進まないと、と焦る。でもさ、そんな急かしてどうするんだよ。はぁ、こうやって理由を話そうとすると、途端に難しくなるんだよな。目的とか、現状とか、ギャップとか、目標とか、課題とか、対策とか、スケジュールとか。そんな複雑な話になるんだ。難しい話はやめようよ。とりあえず上がって酒でも飲みなよ。で、なんか適当に話そうよ。真剣に未来の話をする必要はないよ。こうやって繰り返してきたし、繰り返していきたいんだ。
もっといけると思っていたんだ。俺はもっと上にいけるって。完璧な人生をずっと思い浮かべて、それを行動によって実現しようと必死だったんだ。でも完璧なんて無かったんだ。正解なんて無かったんだ。もうあの時の子供の頃の気持ちはどこかにいってしまった。あの気持ちは、頭の中で描いていたイメージは、どこかに吸い込まれてしまったんだ。
「世界は終わります」
最後だ。
全部終わりにしよう。
そうやって、また世界に日が昇った。